非常に硬い歯の表面。
その硬さのため、どんな食べ物でもしっかりと噛むことができますし、何十年も使うことができます。
歯は複雑な構造をしており、表面の「エナメル質」、内部の「象牙質」、歯根(歯の根っこ)を覆う「セメント質」、「歯髄」(歯の神経)からなります。
そのそれぞれが、非常に硬い成分でできています。
硬さを表す数値で「モース硬度」というものがあり、
- エナメル質はモース硬度7(水晶くらい)
- 象牙質はモース硬度5〜6(オパールくらい)
- セメント質はモース硬度4〜5(ヒトの骨、鉄くぎくらい)
ですので、歯は骨よりもはるかに硬いといえます。
ちなみにダイヤモンドはモース硬度10です。
とはいえ、歯ぐきから見えているエナメル質は、こけてコンクリートなどにぶつけたり、スポーツや格闘技で過度な衝撃が加わると、歯の頭がかけることがあります。
目に見える歯の頭の部分が割れることを、「歯冠破折」と言います。
割れ方にもよりますが、歯の頭の部分だけ欠けたのであれば、そこを補うようにプラスチック(レジン)や銀歯、セラミックなどで治療できることがほとんどです。
しかし、ぶつけたりしなくても、歯を支える根っこが割れてしまうことがあります。
歯ぐきの中にある歯の根っこが割れることを、「歯根破折」と言います。
根っこはエナメル質よりは柔らかい象牙質やセメント質でできていますが、それでも骨よりも硬い成分です。
では、直接衝撃が加わることのない歯の根っこがなぜ割れるのでしょうか?
なぜ「歯根破折」が起きるのか、歯根破折による症状や治療法、予防法について詳しくお話しさせていただきます。
歯根破折の原因
歯根破折には、歯の水平方向(横)に根っこが割れる「水平性歯根破折」と垂直方向(縦)に割れる「垂直性歯根破折」があります。
水平性歯根破折の原因
水平性歯根破折の原因は、歯の頭が割れる歯冠破折と同様、ぶつけたりして過度な衝撃が加わる外傷によるものです。
多くは歯冠破折となりますが、歯の位置や衝撃の方向により、たまに頭は問題なくても根っこが真横に割れることがあります。
主に前歯に起こります。
垂直性歯根破折の原因
垂直性歯根破折の大きな原因は、物理的な強い圧力が根っこにかかることです。
歯は硬い成分でできているため、普段の食事や会話で歯根破折が起こることはありません。
歯ぎしりや食いしばりがあったり、歯並びや噛み合わせが悪く、その歯に力が集中したりする場合、歯の根っこに強い圧力がかかり続けることで歯根破折を起こします。
歯冠破折のように1回で割れるというよりは、歯の根っこに小さなヒビが入り、それが日常の中で持続的な強い力がかかることで、ヒビが徐々に広がっていって割れることが多いです。
特にむし歯が大きく、根っこの治療(神経を取る治療、根管治療)をしている歯は、むし歯を取る際に歯の根っこの内部も削りますし、根っこの治療をする時も、内部の歯質を少しずつ削り取るため、歯の厚みが薄くなり、過度な力が加わり続けることで割れやすくなります。
何度か根っこの治療を繰り返している歯は、その度に歯が薄くなっていくため、歯根破折のリスクが高くなっていきます。
前歯、奥歯は限らず割れる可能性があります。
歯根破折の症状
水平性歯根破折の症状
外傷を受けたことによる痛みが続くことがあります。
痛みはなくても、歯が折れることにより歯の神経が死ぬことで、時間が経ってから歯ぐきが腫れたり、歯の色が変色してくることがあります。
グラグラすることもあります。
垂直性歯根破折の症状
神経がある歯では、ヒビが入ることで、歯髄(歯の神経)に刺激が伝わりやすくなり、しみるようになります。
ヒビがだんだん深くなって、歯髄にまで達すると、大きなむし歯のようにズキズキ痛むようになったり、噛むと痛いといった症状が現れます。
神経がない歯では、多少ヒビが入ったくらいでは症状がないですが、ヒビが大きくなるにつれ、その隙間から細菌が侵入し、腫れる、膿が出る、噛むと痛むといった症状が出ます。
土台が入っている歯は、その土台や被せ物が取れることもあります。
場合によっては、歯の根っこを支えるあごの骨(歯槽骨)が大きく溶けて、歯がグラグラするかもしれません。
歯根破折の治療法
水平性歯根破折の治療法
歯のどのあたりで割れるかによって治療法が変わります。
比較的歯の頭に近い部分で割れた場合は、割れた部分を取り除き、土台を立て被せ物を入れて治療ができることがあります。
割れた部分が大きく、歯が歯ぐきの下の方にしかない場合は、矯正治療で残っている歯を持ち上げたり、歯ぐきを切って残っている歯を出す必要があります。
歯の根元の方で割れている場合は、歯の根っこの大部分が顎の骨に支えられていて、歯に症状がない場合は経過観察をすることが多いです。
痛みが出たり、歯の神経が死んできているようなら、根っこの治療をすることがあります。
歯の中腹くらいで割れている場合、基本的には経過を見ることがありますが、グラグラしていたり、症状がある場合は残念ながら抜歯となることがあります。
垂直性歯根破折の治療法
歯の根っこが垂直的に大きく割れている場合は、基本的には抜歯になります。
抜歯後はブリッジやインプラント、入れ歯により歯を補う治療を行います。
歯根破折の予防法
日常生活で気をつける
水平的歯根破折は、外傷が原因になりますので、日常生活で前歯をぶつけないように気をつけたり、スポーツの際はマウスガード を着用するようにしましょう。
小さなお子さんがいる場合、子どもが急に立ち上がって、前歯を頭でぶつけられて歯が折れた、ということもありますので気をつけましょう。
むし歯の治療を早めに受ける
むし歯は小さいうちでしたら、少し歯を削るだけで治療ができます。
むし歯が大きくなるまで放置したままだと、それだけ歯を削らないといけませんし、むし歯が歯髄(歯の神経)にまで達した場合は、根っこの治療(神経を取る治療、根管治療)をして、大きく削らないといけません。
削る量が多いほど、残っている歯は少なく、薄くなり、垂直的歯根破折のリスクが高くなります。
むし歯は初期のうちに治療を受け、定期検診で新しいむし歯がないかもチェックしてもらうようにしましょう。
矯正治療をする
歯並びや噛み合わせが悪いと、噛む力が全体的に分散せず、特定の歯に力が集中することがあります。
歯の根っこに力が加わり続けると、垂直性歯根破折のリスクが高まるため、矯正治療により歯の並びや噛み合わせをきれいにすることで、特定の歯に過度な力がかからないようにすると良いでしょう。
日中の食いしばり癖を気をつける
食事や会話の時以外は、上と下の歯は離れてないといけません。
しかし、常に上下の歯と歯が接触しているのが癖になっている方がいらっしゃいます。
TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)といい、TCHがあると強い力ではないですが、歯に長時間力がかかることで、垂直性歯根破折のリスクとなります。
1日に何度も意識して、上と下の歯が当たらないように気をつけましょう。
マウスピースを使用する
日常生活の中で、食事や会話で歯に力がかかるくらいでは、歯が割れることはほとんどありません。
寝ているときに歯ぎしりをされていると、食事の時の何倍もの力が、長時間歯にかかり続けるため、垂直性歯根破折の大きなリスクとなります。
歯と歯が直接力をかけ合わないよう、睡眠時にマウスピースを使用し、歯に過度な力がかからないように保護してあげましょう。
いかがでしたでしょうか?
垂直性歯根破折の場合、抜歯となることがほとんどです。
そうならないためにも、むし歯の治療は早めに受ける、歯ぎしりがある場合はマウスピースをつけるなど、できることはするようにしていきましょう。