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2021.01.29

お子さんのお口の発育は大丈夫?「口腔機能発達不全症」の話

お子さんのお口の発育は大丈夫?「口腔機能発達不全症」の話近年、平均寿命が延びてきており、ますます高齢化が進んでおります。

平均寿命が延びてきているが、健康寿命(日常生活を制限されることなく、健康的に送ることのできる期間)とはまだまだ開きがあり、最後の約10年は何かしらの介助が必要な方が多いのが現状です。

年齢と共に、お口の中の機能が衰える「口腔機能低下症」が歯科分野でも問題になっており、お口の機能が低下することで、飲食物をうまく食べることができなかったり、そのことで認知症になるリスクも上がると言われています。

また、うまく飲み込めなくなるため、食べたり飲んだものが食道に入らず、気管に入ることで「誤嚥性肺炎」のリスクも問題となっています。

高齢化が進んでいるため、どうしても高齢者の身体や医療に注目されることが多いですが、実は今、口腔機能が衰えてきた高齢者と同じように「うまく食べたり飲み込むことができない」、「発音がはっきりしない」といった口腔機能の発達がうまくできていない子どもが増えています。

病気ではないが、正常の発達の状態と比べて、お口の機能が十分に働いていないこと「口腔機能発達不全症」といい、近年とても問題視されるようになりました。

今回は、最近増えてきている「口腔機能発達不全症」についてお話しさせていただきたいと思います。

「口腔機能発達不全症」とは

まず、「口腔機能発達不全症」とはどういう状態かというと、

  • 「食べる機能」「話す機能」「その他の機能(呼吸を含む)」が十分に発達していないか、正常に機能獲得ができていない。
  • 明らかな食べる機能の障害の原因となる病気がない。
  • 口の機能の正常な発育において個人的な、あるいは環境的な要因があり、専門的な関与が必要である

とされています。

すなわち、「口腔機能発達不全症」とは、生まれつき骨格や筋肉の発達に影響を与える病気(小顎症、ダウン症、巨舌症など)がなく、食べたり話したりがうまくできてはいないが、日常生活の癖や習慣を変えたり、トレーニングをすることで改善が見込める状態、ということです。

ただでさえ、高齢になるとお口の機能は低下していきますが、子どもの頃からすでにお口の機能の発達が不十分だと、より若い年齢でお口の機能が衰える可能性があります。

また、お口の機能が十分でないままだと、食事がうまくできないことで栄養がきちんと取れなかったりし、体の成長にまで影響を与える恐れがあります。

より健全に成長し、そして健康で長生きするためにも、赤ちゃんや子どもの頃のお口の成長はとても大事です。

つまり、「口腔機能発達不全症」がある場合は、早期に改善する必要があります。

「口腔機能発達不全症」が疑われる状態とは

「口腔機能発達不全症」とは、お口の機能が完全に発達していないわけではなく、十分にできていない、少し気になるなというくらいなので、保護者の方も見逃すことがあります。

「口腔機能発達不全症」が疑われる状態はいくつかありますので、以下で当てはまるものはないかチェックしてみてください。

⬜︎哺乳量や授乳回数が多すぎたり少なすぎたりとムラがある
⬜︎離乳食が進まない
⬜︎食べ物の噛み方がおかしい
⬜︎食べるのに時間がかかる
⬜︎食べる時の飲み込み方がおかしい
⬜︎なかなか飲み込むことができない
⬜︎丸飲みしてしまう
⬜︎食べこぼすことが多い
⬜︎発音がおかしい
⬜︎いつも口を開けて息をしている
⬜︎指しゃぶりをやめられない
⬜︎その他の口の癖がある

「口腔機能発達不全症」への対応

食生活や生活環境の変化により、口腔機能の発育不全は以前から問題になっていましたが、歯科医院では診断や治療を行うことができず、簡単な指導などで対応されることが多かったです。

きちんと指導をするとなると自由診療で対応している歯科医院もありました。

しかし2018年4月から、お口の機能の発育に何らかの遅れがあり、歯科医院などで「口腔機能発達不全症」と診断がされれば、保険診療で歯科医院において指導や管理が受けられるようになりました。

また、2020年4月からは、離乳完了前(授乳期間を含む)の時期のお子さんも、指導や管理の対象になりました。

いくつかの項目に該当し、「口腔機能発達不全症」と診断された場合、約6ヶ月間を目安に、その子どものお口の発育状態に合わせた指導や管理を受けることができます。

その間やく1、2ヶ月に1度のペースで来院していただき、経過を見るとともに、約6ヶ月後に症状の改善について再評価を受けます。

発育段階である15歳頃までが対象になります。

「口腔機能発達不全症」への対応例

姿勢の改善

姿勢がよくないと、お口の成長にも悪影響を与えます。
猫背だと脊椎が曲がり、頭が前に出ることで下のあごも前に出たり、口呼吸になりやすくなります。

正しい立ち姿勢はどのようなものか、また座る時の正しい姿勢はどのようなものかを知っていただき、日頃から意識していただきます。

食事のアドバイス

まずは正しい姿勢で椅子に座れているかが大切です。

小さいお子さんの場合、机が高かったり、足が床についていない場合は、硬めのクッションや分厚い本を用いて、正しい姿勢で座れるようにします。

また食材も、その子の歯の本数や成長に合わせたものでなければいけません。

まだお口の発達もこれからという小さなお子さんなのに、食材が大きすぎたり硬すぎたりすると、思うように食事が進まなくなる原因になります。

反対に、ある程度歯が揃いお口も発達しているお子さんに、食材が小さかったり柔らかいものだと、あまり咀嚼をしなかったり、丸飲みしたりすることで、顎の骨へ刺激が伝わらず、顎の成長が十分に行われなくなる可能性があります。

顎が小さいままだと、歯が並ぶスペースが少なく、歯並びが悪くなる恐れがあります。

むし歯治療・むし歯予防

むし歯で痛みがある状態だと、食事をうまく行うことができず、十分な栄養を摂取することができません。

また、大きなむし歯を放置していることにより、歯の位置が変わり歯並びが悪くなったり、永久歯がまっすぐ生えてこずに、歯並びや噛み合わせが悪くなる原因になります。

そうなると、見た目だけではなく、体の成長にまで悪影響を与える恐れがあります。
小さい頃から、歯が生えてきた時からむし歯予防は行い、健全な口腔機能の発達を目指しましょう。

舌小帯付着異常への対応

舌の下にあるヒダを「舌小帯」と言いますが、舌小帯が短かったり、舌の先端付近まで付いている場合は、舌の動きが制限され、食事や会話がうまくできないことがあります。

これを「舌小帯短縮(強直)症」と言います。

舌の運動制限が見られ、ベーとした時には舌の先が引っ張られてハート型に見られることが特徴です。

舌を動かす訓練などで、徐々に改善される場合はありますが、改善が見られない場合は5歳くらいで外科手術が必要になります。

それまでにも、食事や会話が困難であったり、いじめなどの心理的な影響がある場合は、早い年齢でも手術が検討される場合があります。

口を閉じる練習

最近、お口が開いたままの子、ポカン口の子が増えています。
口呼吸だと歯並びや噛み合わせが悪くなる原因になります。

酸素の取り込み量が鼻呼吸と比べると少ないため、集中力が続かなかったり、代謝が悪くなる原因になります。

またウィルスや病原菌などが、直接に気管に入るため、風邪を引きやすかったり、インフルエンザなどの感染症にかかりやすくなったりします。

ポカン口は早期に治す必要があるため、お口を閉じるトレーニングを行い、経過を見ていきます。

口の悪い癖の改善

日常生活の中で、指しゃぶりや爪を噛む癖、頬杖などの歯並びや噛み合わせが悪くなる癖がある場合は、それらの改善を行う必要があります。

どのような癖があるかをまず確認し、それにあったトレーニングを行なっていきます。

いかがでしょうか?

お口の成長は、全身の成長にも大きく影響を与えます。
お口の機能がきちんと発達できていないと、体の成長の遅れにもつながるかもしれません。

お子さんのお口の中はきちんと成長しているか、小さい頃から確認・管理し、必要があれば日常生活における訓練やトレーニングを行い、健全な成長へと導くようにしましょう。